モテ期なんて聞いていない!ー若手実業家社長の幼馴染と元カレ刑事に求婚されています


 トカイナカな地元は、あかりのようにずっと住んでいる者にとっては居心地は良かったけれど、理貴のような転入組には楽しい思い出ばかりではなかったのだろう。
 新参者として度の過ぎたからか、いじりと婉曲な表現をしたいじめがあったのだ。
 教師の目を掻い潜って起きていた出来事。
 側にいた幸人やあかりは、出来るだけ理貴を一人にしないこと、現場を見たらワルガキ共を追い払うことくらいしか出来なかった。
 目の敵にしていたのが地元有権者の息子だったから、たとえ学校に訴えたしても理貴を守ったか分からないが――理貴は中学受験をして引っ越していった。

 守りきれなかった苦い思い出が蘇る。一瞬で温度が下がった体をアルコールで温めるように、ソムリエが注いでくれた赤のイタリアンワインを口に含む。
 飲みの場ではもっぱらビールか焼酎の水割りのあかりには、ワインの度数は高かったようだ。
 喉に引っかかることなく、スルッと胃に落ちたワインがボッと熱を持つ。
(飲み過ぎたら、酔うな……)
 赤にしては口当たりのいい飲みやすいワインだ。普段飲んでいる酒ように煽っていたらあっという間に酔いが回る。
 それにそんな居酒屋のような飲み方は、高級店(ここでは)相応しくないだろう。
(それに……)
 すでに退社しているとはいえ立場上、いつ緊急の呼び出しがあるかわからないのだ。
 次の日に残るような飲み方はするべきではない。
 それにだいぶ鍛えられたといえども、あかりはあまり酒に強い方ではないのだ。
< 4 / 230 >

この作品をシェア

pagetop