モテ期なんて聞いていない!ー若手実業家社長の幼馴染と元カレ刑事に求婚されています

 店員が当然のように颯の前に持ってきたエイヒレを、あかりの前へ置き直す彼にときめいてしまうのだ。

「オレもちゃんと上にはフラレたって報告してる。別れたのに付き合っていると言ったら虚偽報告になるしな」
「ならなんで?」
 ふぅ、とため息をつきながら颯は呟いた。
「その時に、別れはしたけど納得はできていないって言ったのが福田さんの耳に入ったらしくて……」
「……あ」
 あかりは頭を抱える。颯がいう「福田」とは、長兄の雅人(まさと)のことだ。
 雅人は同じ刑事課の颯のことを気に入って色々と気にかけているのだ。
 付き合い始めたと報告してからは、実妹のあかりよりも颯のことを可愛がっていたくらいだ。
 報告すれば面倒くさいことになるし、同じ警視庁所属だ。いずれ勝手に耳に入るからと、敢えて雅人には言わなかったのだがこんなことになるとは。

 深くため息をついたあかりに、颯は苦笑いを浮かべる。
「上から指示来る前に先に伝えようと連絡したのに。……お前が無視するからだ」

 そして、颯は唐突に表情を引き締めた。

「あかり」
「なんですか?」

 颯は何度か言い淀んだ末、絞り出すようにその一言を口にした。

「結婚……しないか」
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