モテ期なんて聞いていない!ー若手実業家社長の幼馴染と元カレ刑事に求婚されています


 理貴は驚いた――心の底から驚いた様子であかりを見つめる。
 見知っている理貴といえど、穴が空くほど見つめられると流石に変な気持ちになる。
 一般的に見ると理貴は、イケメンに分類されるのだ。
 あかりの好みからはズレるといえども、いい男に見つめられるのは悪い気はしない。しないけれど、ここまで熱心に見つめられると勘違いするぞ、普通の女は、というのは心の中だけで呟いておく。

「……あかりちゃんだもんな。忘れてる、か……」
 ため息と共に呆れたような呟きが理貴から漏れる。
 あかりが何を、と訊ねる前に理貴が口を開いた。

「昔言ってたでしょ。結婚するなら金持ちがいいって」
「言った……かな?」
「うん、言った。あかりちゃんが警察学校に行く前に話したんだけど、覚えてない?」
 過去の記憶を遡ってみるが全く覚えがない。
 警察学校に行く前といえば、既に自由登校になっていた時か春休みだろう。
 その時期は、早々に推薦で合格した友達と遊んだり、就職してから必要になる車の免許を取りに行ったりとバタバタしていた頃だ。
 それも十年も前のこと。その後警察学校で色々しごかれて記憶が吹っ飛んでいることもあり、あかりは理貴と会ったことなど欠片も覚えていなかった。
 だけど理貴はこんなくだらない嘘をつく人ではないから、あかりが単純に忘れているだけだろう。
「ごめん、全く覚えてない」

 あかりの正直な詫びに、まぁいいよ、と理貴は苦笑する。

「で、どうかな?」
「ん?何が?」
 急に切り出した理貴の言葉の意味がうまく読み取れなくてあかりは聞き返す。
 理貴は背筋を正すと、一息に言った。
「僕と結婚するのはどうかな?」

「……。……。え……?」

 これが、あかりと理貴の物語の始まりであった。

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