失恋相手と今日からニセモノ夫婦はじめます~愛なき結婚をした警視正に実は溺愛されていました~
 どこまでも無神経で利己的な正也に、彼のどこが好きだったのかさえわからなくなってくる。しかし正也はなぜか得意げだ。

「だから、未可子を嫌いになったわけじゃないんだ。もしも相手がいないなら俺と――」

「ばかにしないで。自分の損得だけで結婚を考えるなんて最低。あなたとよりを戻す気なんてまったくない」

 私は無理やり正也の腕を振りほどく。

「私、結婚したの。もう二度と私の前に現れないで!」

 人目もはばからず叫び、駆け出す。

 悔しくて、苦しい。どこまで都合のいい女として軽んじられているの。

 自分の将来のメリットにならないと思ったら、あっさり捨てられ、それがなくなったら、今度はなんでもなかったかのようにもとに戻そうとされる。

 そういう扱いをしてもいいと思われているんだ。

 最悪の再会だ。正也の職場や家の最寄り駅と方向は正反対なのに、どうして運悪くここで出会ったのか。偶然を呪うしかない。
 なに?

 マンションのエントランスに入る直前で、ふと立ち止まる。つけられている、とまではいかなくても、やはり誰かの視線を感じた。

 まさか正也?

 けれど、それらしい人物はやはり見あたらない。気味悪く感じつつ、正也に会ったせいで過敏になっているのかもしれないと思い直す。

 早く帰りたい。光輝さんはまだ帰宅していないだろうが、彼と生活している今の私の居場所に、今はただ戻りたかった。
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