失恋相手と今日からニセモノ夫婦はじめます~愛なき結婚をした警視正に実は溺愛されていました~
『彼は冷静に自分を客観視して、最善を選べる人間です。ですから、ほとぼりが冷めたら私に返してくださいね。いいえ、正確には彼は最終的に私を選ぶので、それまで光輝さんをよろしくお願いします』

 ところが不意に千恵さんの言葉がよみがえり、心臓が早鐘を打ち出す。

 違う、光輝さんは正也とは違う。

 ただ、千恵さんの件がなくてもこの結婚生活が永遠に続くという夢は見ない方がいい。

 それぞれ事情は違うけれど、正也にしても、大林さんの息子さんにしても、光輝さんにしても、私が選ばれることはないんだ。
 涙腺が緩みそうになり、ソファで膝を抱える。

 でも正也が浮気しなかったら別れていなかったのかといえば、きっと遅かれ早かれだめになっていた。大林さんの息子さんが私でもいいって返事をくれていたら、今みたいな気持ちで結婚生活を送れていた?

 誰でもいいわけじゃない。ほかの人はどうでもいい。

 たったひとり……誰よりも大好きな人の、光輝さんの一番になれたらそれでいい。

 そう思っていたけれど、やっぱり私には難しいんだ。

 どんどん気持ちが沈んでいく。そのときドアの開く音がして急いで頭を上げた。

「ただいま」

「お、おかえりなさい」

 そこには帰ってきたばかりの光輝さんの姿があった。慌てて彼に近づく。

「お疲れさまです。なにか召し上がります?」

「いや、かまわない」

「お風呂の準備ができてますよ」

 そこで口をつぐむ。疲れているであろう光輝さんにあれこれまくし立てて……。彼のペースがあるはずだ。光輝さんはちらりとキッチンに視線をやった。
< 111 / 163 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop