失恋相手と今日からニセモノ夫婦はじめます~愛なき結婚をした警視正に実は溺愛されていました~
 光輝さんに抱きしめられ、彼の腕の中に閉じ込められる。おずおずと背中に腕を回すと彼は優しく私の頭をなで始めた。大きな手のひらの感触が心地いい。

 幸せ。なんだか夢みたい。

 自然と頬が緩む。すると光輝さんが腕の力を緩め、こちらを覗き込んできた。

「うれしそうだな」

「だってうれしいですから」

 光輝さんは違うのかな?

 そこではたと気づく。

 も、もしかして夫婦の歩み寄りのひとつとして、こうした触れ合いを解禁しただけで、そこに光輝さんの気持ちはないのでは?

 その考えに至り、舞い上がっている自分が恥ずかしくなった。

 なにかフォローすべきだと言葉を探す。すると頬に手を添えられ、額に口づけが落とされた。目をぱちくりさせると光輝さんと視線が交わり、続けて目尻にキスをされる。軽く唇を寄せられているだけなのに、丁寧に扱われているのが伝わる。

 鼻先や頬などたくさん口づけられた後、最後は唇を重ねられた。

 さっきよりも甘くて長い。

 キスを終え、お互いに見つめ合う。そして、この沈黙が少しだけ怖くなった。

「こ、光輝さんってやっぱり背が高いですよね」

 なんでもないかのように、極力いつも通りに話題を振る。彼からこう振る舞われるより、よっぽどいい。さりげなく彼から離れようと試みる。

「別に、そこまで――」

 ところが光輝さんが言いかけて途中でやめた。どうしたのかと思ったら、回されていた腕に力が込められ、私は再び彼の方に引き寄せられる。
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