失恋相手と今日からニセモノ夫婦はじめます~愛なき結婚をした警視正に実は溺愛されていました~
「――はい――ですから――」

 光輝さんの声が遠くで聞こえる。

 重い瞼を開けると、光輝さんの声はより鮮明になった。

「ええ。……はい。……わかりました」

 誰かと電話している? 仕事の話?

 夢うつつにぼうっとしていると、彼がそばにやって来るのが気配で伝わる。

「目が覚めたか?」

 少し驚いているような顔をしているのは、気のせいなのかな。

「おはよう……ございます」

 寝起き特有のかすれた声になった。目をこすって視界をはっきりさせようとしていたら、光輝さんがベッドに腰掛け、こちらに身を乗り出して手を伸ばしてきた。

 優しく頭をなでられ心地よさに目を細める。ボディソープのほのかないい香りが鼻をかすめ、そこではっきりと意識が覚醒した。状況を把握するのと同時に、今の自分がなにも身にまとっていないと気づく。

 起きないといけないと思うのに、身を隠したくて慌ててベッドに潜り込んだ。

「す、すみません。私……」

 謝罪しながら、先が続けられない。

 今、何時? 朝ごはんの支度をしないといけないのに、すっかり寝坊してしまった。光輝さんはきちんと身支度を整え、おそらくシャワーも浴び終えているのだろうに。

 その対照さも相まって居たたまれなさが倍増してくる。

「無理しなくていい。まだ休んでいたいなら休んでおけ」

「い、いいえ。起きます」

 肩に掛け布団を羽織った状態で身を起こす。なんだか気恥ずかしくて、光輝さんの顔がまともに見られない。

 意識しているのは私だけで、彼はいつも通り平然としている。

 昨日の夜とは別人みたいだ。もしかして夢だったのかな?
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