失恋相手と今日からニセモノ夫婦はじめます~愛なき結婚をした警視正に実は溺愛されていました~
「未可子」

「あ、はい」

 上目遣いにうかがっていたら、光輝さんに名前を呼ばれる。急いで答えると、彼は身を乗り出して額をこつんと重ねた。

「だったら、さっさと服を着た方がいい。襲われたくなかったら」

 昨晩と同じ、獣のような獰猛さと色気をはらんだ声と瞳に、思考が停止する。

「……はい」

 しばらくして小さく答え、こくんとうなずいた。唇を重ねられ、ごく自然に目を閉じる。

「コーヒーは淹れておく。慌てなくてかまわない」

 そう言って、彼はさっさと部屋を出ていく。お礼も言えず、私はしばらくその場を動けなかった。静かになった部屋で、今になって頬が熱くなり両手で押さえる。おまけに心臓まで早鐘を打ちだした。

 肌に残った余韻が甘く疼き、彼にたっぷり求められ、愛されたのは現実だったと実感する。

 光輝さんが相手だとなにもかもが初めてだ。相手を想ってこんなに苦しくなったり、切なくなったり、幸せだと感じるのも。

 ここまで大事にされたこともない。昨日もそうだ。強引で意地悪で、翻弄されるばかりなのに、都度こちらの様子をうかがって、私の気持ちを確認して大切に扱ってくれる。

 だから素直に彼を欲しがれた。

 光輝さんが好き。誰に聞かれても迷いなく答えられる。

 だから、口に出すのが怖いけれど光輝さん本人に伝えてみよう。昨日、いろいろ口走った気がするものの、彼への想いをはっきりとは言えていない。光輝さんはどんな反応するだろう。

 緊張しつつ身支度を済ませ、手櫛で髪を整えながらリビングに向かうとコーヒーのいい香りが鼻をかすめた。
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