失恋相手と今日からニセモノ夫婦はじめます~愛なき結婚をした警視正に実は溺愛されていました~
 せっかくここまで来たので、せめてコンシェルジュに聞いてみようとエントランスに向かった。

 え?

 しかし、その足がすぐに止まる。すぐ目の前には、ずっと会いたくてたまらなかった光輝さんが歩いていた。そして、その隣にはなぜか千恵さんの姿があった。

 なん、で?

 見間違いを疑う。できれば夢であってほしい。けれど、私の前を歩くふたりは、まぎれもなく光輝さんと千恵さんだ。

 並ぶ、と言うにしてはずいぶんと距離が近い。ふと千恵さんが甘えるように光輝さんの腕に自身の腕を絡めるのが見え、心臓が跳ねる。

 光輝さんは振りほどこうとせず、千恵さんにされるがままだ。

 逆に私は、足を縫いつけられたようにその場を動けなくなり、距離ができるふたりの背中をひたすら見つめる。

 やがてふたりはマンションに入っていった。

 どうして、光輝さんと千恵さんが?

 受け入れたくなくて、目の前で起きた事態を拒否したくなるが、事実だ。

 光輝さんが私と別々に暮らすのを提案したのは、千恵さんと過ごすため?

『彼は最終的に私を選ぶので、それまで光輝さんをよろしくお願いします』

 もしかして光輝さんは、とっくに私との結婚を終わらせる算段で、千恵さんとの結婚を思い描いていたのかな?

 そうだとしても、納得すると決めていた。けれど現実を目のあたりにして、動揺が隠しきれない。

 あのときは……どうしたんだっけ?

 光輝さんに捨てられたチョコレートを見つけたとき、あふれそうになる涙を必死にこらえて走り去ったのを覚えている。
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