失恋相手と今日からニセモノ夫婦はじめます~愛なき結婚をした警視正に実は溺愛されていました~
 救急病院に搬送された光輝さんはすぐ医師に診てもらい、傷の縫合が行われることになった。医師の見立てでは、傷自体は浅く神経を傷つけてはいなそうだが、十針以上縫うだろうとの見解に、今後の心配が絶えない。

 処置を待つ間、警察の人にいろいろ聞かれ、どう話せばいいのか迷ったが私は身に起こった出来事を正直に話した。

 さすがに疲れて、待合室の椅子に座って光輝さんの無事を祈る。

「奥さん」

 そのとき、不意に声をかけられ顔を上げた。

「……長山さん」

 声の主は以前ひったくり犯に遭遇したときに出会った、光輝さんと同じ職場だったという長山警部だった。

「聞いたよ。鷹本くんのけがについても。大変だったね」

 労わりのトーンに、張りつめていたなにかが切れそうになり、ぐっとこらえた。

「彼は私をかばってけがをしたんです」

 ナイフを持った男性ならいざ知れず、千恵さん相手ならどうにかできたんじゃないか。なにが正解なのかわからない。そもそも光輝さんが私と結婚していなければこんなことには――。

「そりゃ、本望だ」

 沈んでいく思考を遮るような、あっけらかんとした声が響く。目をぱちくりさせて長山さんを見ると、彼はにこりと笑った。

「カッコつけた言い方をしたら、業務内容が違っても市民を守るために俺たちは警察をやっているんだ。けがなんてあたり前、下手すりゃ命を落とす連中もいる。それを覚悟の上でこの道を進んでいるんだ。だから、目の前で誰かが……ましてや自分の惚れた女が危険な目に遭いそうなのを見過ごす方がよっぽど後悔する」

 長山さんと似た発言を、以前光輝さんもしていた。光輝さんは私ではなくても、きっとああやってかばっただろう。
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