失恋相手と今日からニセモノ夫婦はじめます~愛なき結婚をした警視正に実は溺愛されていました~
「大丈夫。とっさとはいえ受け身の取り方は彼もよくわかっている。奥さんが自分を責めたり、気に病んだりする方がよっぽど彼はこたえるだろうよ」

 長山さんの方が私よりも光輝さんをよく理解している。おかげでつい本音が漏れた。

「……私、妻としてどうしたらいいんでしょうか?」

 光輝さんのためになにができるだろう。彼には返せないほどの恩があるのに、私は光輝さんになにか返せているのか。

 最初から千恵さんみたいに護身術を身につけていたら、彼の仕事にもっと理解があったら、キャリアのために活かせる立場なら――。

「そばにいてやるといい」

 長山さんは穏やかに言いきった。

「前にも言ったかもしれないが、鷹本くんは優秀で間違いなく将来の警察を背負っていける人間になる。でも、上に行く人間ってのは孤独なもんさ。さまざまな重責に耐え、ミスも許されず、同じ立場の人間も少なくなっていく。相当な覚悟がないと厳しい道のりだ」

 光希からも教えてもらった。キャリアとして入庁しても、昇進ごとに徐々に座る席は少なくなっていき、大半は警察をやめてそれ相応の仕事に就いていくのだと。

 でも光輝さんは警察で上に行くと決めている。

「俺なら御免だが……それでも彼が進むと決めているなら、奥さんはただ、そばにいてやればいいんだ。張りつめている世界で、唯一安堵できる時間が家族と一緒のときなのは警官に限った話じゃない。そんな相手として鷹本くんは奥さんを選んだ。彼の意思を信じてやってほしい」

 長山さんは私たちが結婚した事情を知らないはずだ。けれど長山さんの言葉が、今の私には胸に染みる。
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