失恋相手と今日からニセモノ夫婦はじめます~愛なき結婚をした警視正に実は溺愛されていました~
「さっきも言いましたが、光輝さんはなにも悪くありません。私こそ、足を引っ張るばかりで、光輝さんをけがさせて申し訳ないです」

「このけがは未可子のせいじゃない。それに、未可子になにかあるよりよっぽどいい」

 長山さんの言う通りだ。彼は私ではなくても、きっと身を挺してかばったと思う。光輝さんはそういう人だ。だから、彼の気持ちをここでは素直に受け止める。

 そこで尋ねるかどうか悩んでいた件に、思いきって触れることにした。

「……千恵さんを、家に上げたんですか?」

 事件の詳細や、彼女をどう思って、どんなふうに接触したのか聞けないし、教えてもらえないのはわかっている。でもどんな結果でも、知りたい。

「上げていない」

 凛とした声が耳に届き、光輝さんに視線を向ける。

「相手を油断させるために、多少体に触れるのを許したり、それなりの愛想は振りまいたりしたが、線引きはきっちりしていたし思わせぶりな発言も態度も取っていない。それに言ったはずだ。俺は基本的に他人を家に上げないと」

 そこで光輝さんと目が合う。

「結婚する前もした後も、未可子だけだ」

 光輝さんのマンションを初めて訪れたとき、まさか彼と結婚して、そこが私の帰る場所になるとは思いもしなかった。

 でも、光輝さんはそのときには、私との未来を少しは考えてくれていたのかな?

「帰ろう、未可子」

「はい」

 けがをしていない右手を差し出され、彼の手を取る。

 しばらくしてタクシーがやって来たので、ふたりで後部座席に乗り込んだ。
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