恋慕~再会した強引御曹司に甘く囚われて~
「名家のご令嬢でもなく、匡に似合う立場でもない私は、今後迷惑をかけるとわかっている。なにも持たない私が婚約話を積極的に進められるわけないじゃない。私だって嫉妬するし、好きな人を独り占めしたい。ずっと隠してきたけど……もう無理」


ずっと溜め込んできた溢れる感情を堪え切れず、零れた涙がアスファルトに小さな染みを作る。

いい年をして感情的になって泣きわめくなんて最悪だ。

癇癪を起こして八つ当たりする私は救いようがない。

匡が最も嫌がる束縛をする私は、恋人はおろか婚約者でいられない。


「……さようなら、ごめんなさい」


それしか、言えなかった。


「眞玖……!」


彼から距離を取り、踵を返す。

もつれそうになる足を必死で動かし、彼から離れる。

言い逃げのようになってしまったが、こんな状態で彼の傍にはいられない。

どれぐらい走っただろう。

この苦しさは乱れた呼吸のせいか、自ら終止符を打った恋のせいなのかわからない。


「長谷部」


不意に背後から名前を呼ばれ、ビクリと肩が跳ねた。

まさか私の醜態を見られていたのだろうか。

ここは会社のすぐ近くだし、知り合いがいる可能性は高い。

震える指で乱暴に涙を拭う。

ヒリヒリ痛む目に泣いていたと気づかれるかもしれないが、なんとかして誤魔化そう。

……これ以上惨めになりたくない。
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