恋慕~再会した強引御曹司に甘く囚われて~
平常心、と何度も自分に言い聞かせ、専務室の重厚な扉をノックする。

すぐに鹿賀さんが扉を開けてくれた。

先ほどの戸田さんとの会話をふと思い出す。

鹿賀さんは室内にいるのに、なぜ五十嵐さんは帰されたのだろう。

ミーティングと称しているが、やはり私的な時間だからだろうか。

考え事に気を取られていた私の頭上に、少しだけ影がさした。


「眞玖」


「……藤宮くん」


突然の近い距離に戸惑う。

社会人になり数年が経ち、常に冷静だと周囲に言われてきた。

実際は必死に取り繕っていただけで、本当の私の心はとても脆弱だ。


「なにかあった?」


綺麗な二重の目に射抜かれ、鼓動がひとつ大きな音を立てた。


「匡、入ってくるなり長谷部を口説くな」


「大事な眞玖を気にかけてなにが悪い」


「距離感が問題なんだよ」


軽口を叩きあうふたりに割って入るように、鹿賀さんが声を発した。


「皆様お揃いですので、準備をいたしますがよろしいですか?」


「ああ、そうだな」


峰岡専務の返事を耳にして、私は鹿賀さんに声をかけた。


「なにかお手伝いできることはありませんか?」


「ありがとうございます。届いたお食事を運ばせていただくだけですから大丈夫ですよ。せっかくの機会ですし、ゆっくりなさってください」


そう言って、鹿賀さんは手際よく食事の準備をしてくれる。

革張りのソファの前にあるセンターテーブルに美しいお膳が並んでいく。
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