恋慕~再会した強引御曹司に甘く囚われて~
私は初めての場に少々圧倒されながらも、視線を動かす。

すると、私のすぐ近くに立っていた男性と目が合った。


「初めまして、五十嵐孝臣(たかおみ)と申します」


長身に軽くウエーブのかかった前髪と短めの襟足、切れ長の目が印象的な男性だ。


「長谷部眞玖です。初めまして」


お互いに簡単な自己紹介を終えたところで、五十嵐さんが当たり障りのない話題を振ってくれた。

そのタイミングや相槌も嫌味ではなく、緊張せずに話ができた。


……でも、それだけだった。

言動のひとつひとつに一喜一憂したり、視線の行き先が気になったり、些細な仕草に鼓動が乱されたりしない。

仕事で関わる男性と世間話をする、そんな感覚だった。

そもそもひとめ惚れでもしない限り、初対面の男性に心を揺さぶられるなんて、まずありえない気がする。

だとすれば、元から比較対象にならない。

新たに知り合った男性にすぐ心を明け渡せる自信はないし、打ち解けられる技量もない。

長い時間をともに過ごして、信頼している専務にさえ、恋情を感じたことはないのに。

振る舞いや言葉ひとつで、私の心を簡単に揺さぶるのは今も昔もたったひとりだけだ。

わかっていたはずの答えを、改めて深く心に刻みつけられた気がした。
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