隠れ御曹司の恋愛事情(改稿版)
わたしの問いかけに彼の顔色が悪くなる。
「……誰に聞いたんです?」
絞り出すような声音を聞いて、わたしは俯いた。
さっきまで浮かれていた空気は微塵も残っていない。
残ったのは、気まずい沈黙だけ……
「ごめんなさい」
「いえ。謝るのは僕の方です」
「でも」
「桃子さん。不快な思いをさせてしまって申し訳ありません」
「謝らないで……桐山くんは、その。お見合いをするの?」
「しません。ただ……」
わたしだって彼との結婚を濁しているくせに、ハッキリと否定してくれない桐山くんにモヤモヤする。
きっとお見合いの相手はわたしよりも家柄も容姿も優れているのだろう。彼の隣に別の女の人が立つ姿を想像するだけで、ドロドロとした思いでいっぱいになる。
(あ、わたし顔も知らない人に嫉妬しているんだ)
その正体が分かった時、醜い感情を抱いていることを知られたくないと願ってしまった。彼に顔を見られないように俯いて、帰ろうとする。
「ごめんなさい。今日は帰るね」
「桃子さん」
「もし、桐山くんがなんらかの事情でお見合いをしても仕方がないことだから……」
彼の家柄を考えれば、それは仕方のないことだ。そう割り切ろう。大人になろうと考えた。けれど、その一言が引き金になってしまったのだ。
「は……。僕がお見合いをしても貴女にとってはどうでも良いことですか?」
「それは……」
違うと言いたい。
付き合ったばかりでしょう?
お見合いなんかハッキリと断ってほしい、と。
なのにここにきて、わたしは彼にまだ『答え』を出せていない後ろめたさや、大人の体面を気にしてしまった。
「桐山くんの決めることだから」
そう言って、唇を噛む。桐山くんはしばらく黙って、そしてわたしの肩を掴んだ。
「じゃあ、たとえば。桃子さんは親戚からお見合いの話がまたあったとして……断れなかったら行くんですか?」
「それは……わたしと桐山くんでは立場が違うんでしょう?」
行かない、と素直に答えれば良いのに。歪曲的な言い方になってしまった。
「僕は貴女が他の男の隣に居る姿を想像するだけで腹が立ちます」
「桐山くん……」
「桃子さん。こっちを向いて」
俯いていた顔を上げることはできない。だって今のわたしの顔は嫉妬に歪んだままだから。
奥歯を噛み締めて、首を横に振る。
「桃子さん……」
そんな風に切なそうに呼ばないでほしい。罪悪感で胸がチクチクと痛む。
「本当にごめんなさい。今日は帰る」
醜い感情で掻き乱れたまま、桐山くんの傍に居たら何を口走るのか分からない。ぎゅっと口元を引き締めて、彼から離れようとする。
「嫌です。帰らないで」
彼の腕がわたしの背に回される。逃げ場を失って彼の腕の檻に囚われてしまったのだ。