隠れ御曹司の恋愛事情(改稿版)


「嫌な気持ちにさせたのなら、何度だって謝ります。だから僕から離れないでください。すみません。本当は嫉妬してほしいと思ったんです」

 彼の言葉にピタリと動きが止まる。
 そしてわたしの抵抗が止まったからか、彼も力を抜いた。


「嫉妬?」
「以前、桃子さんはお見合いをしたでしょう?」
「うん」
「その結果。教えて貰っていません」
「あ……」

 そうだ。自分のことに精一杯になっていて、彼に伝えていなかった。


「僕に好きだと言ってくれたので、多分上手くいかなかったのだろうな、とは思っています。でもハッキリと言われていないことが引っかかっていて……」 

 ーーどれだけテンパっていたのだろう。


「伝えるのを忘れてしまっていて、ごめんなさい。桐山くんの想像通り、あの縁談はなかったことになったの」
「どうしてです? 僕の見た限り、上手くいきそうな感じでしたけど……」
「その、それは、えっと」
「桃子さん?」
「だって桐山くんがわたしに告白したから……」
「……え」
「あの後もお見合い中なのに、桐山くんのことばっかり考えちゃって、あちらから断られてしまったの」


 思えばあの時、わたしは桐山くんを好きになったのだろう。

「桐山くん。好きだよ。告白されてから意識しただなんて、単純な理由かもしれないけど、ちゃんと好きだから」


 やっぱり自分の気持ちを伝えるのは慣れなくて、恥ずかしさからグリグリと彼の胸に顔を埋める。

「かわ……ちょっと、可愛すぎません? 今、どんな顔しているんですか? 見せてください!」
「嫌。見ないで」
「少しで良いですから……!」
「恥ずかしいから」


 攻防が続くうちに、どちらともなく笑った。
 密着している分。お互いの顔は見えない。けれど、触れているからこそ、お互いの心音や吐息。笑った時の振動がダイレクトに伝わる。

「……ねぇ、桐山くん」
「はい」
「お見合い相手の写真。見たいって言ったら見せてくれる?」
「え……」
「知りたいの。貴方がどんな人から縁談が送られてきているのか。相手を知らないと覚悟も決められないでしょ?」
「それはどういう……」
「今、覚悟を決めることにしたの。それと、『期限』がなんなのか。ちゃんと説明して?」
「え、え……?」


 彼はオロオロと戸惑いながらも、わたしの手を引いて、ソファーに座らせる。そして、桐山くんは視線を彷徨わせた後。彼自身も覚悟を決めたように息を吸い込む。

「ウチの家。結婚に関して一つだけルールがあるんです」
「うん」
「男女共に、二十八までに自分で結婚相手を見つけられないのならば、家が決めた相手と結婚しなければならないーー僕も後半年で二十八の年ですから、親族からそろそろ結婚相手を探せ、とせっつかれているんです」
「そんなルールが……」
「昔は女は二十五、男は三十、だったらしいですけどね。男女共に平等ということで、今はその年にと決められたみたいです」
「そうだったんだ」


 だから彼が『結婚前提』で交際を申し込んできたのか。

(わたしがお見合いをするから、それを意識してのことだと思ったけど……)


 彼にも事情があったらしい。

「じゃあ、どうして『期限』のことをわたしに教えなかったの?」
「だって、それは僕の都合ですから……ただでさえ、結婚しなければならない期限は決まっていたので、せめて結婚をするかしないかは貴女の意思を尊重しようかと……」
「それなら、もしわたしが断ったら……?」


 そこでわたし達の関係は終わってしまうのだろうか。

「ええ。大丈夫です。言ったでしょう? 貴女の意思を尊重する、と。もし貴女が嫌だと言ったら、僕が『説得』させてみせますから」
「うん?」


 ニコニコと彼の笑みが濃くなる。けれど、その笑みが濃いほどに重圧を感じるのはわたしの気のせいだろうか?

「ちゃんと根気強く説得しますよ。プレゼンも営業も得意な方なんです。きっと貴女の同意を得てみせます」


 ポン、と肩に手を置かれる。めちゃくちゃ良い笑顔だ。彼なら本当になにかしら『やる』のだろう。


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