隠れ御曹司の恋愛事情(改稿版)
そして、彼に見合いの釣書を手渡される。
いくつもあったからか、それがずっしりと重く感じる。
ぺらりと捲ってみれば、どの女性も家柄も容姿も全てわたしより上だと思った。
「桐山くんはどうしてわたしを好きになったの?」
彼が女性に人気だということをわたしは身をもって知っている。
それに御曹司ともなれば、さらに人気に拍車が掛かるだろう。
そんな彼がどんなキッカケでわたしを好きになったのか。その理由を知りたかった。
「貴女がずっと真っ直ぐに僕と向き合ってくれていたからですよ」
そうだろうか?
わたしは彼を避けていたしていたのに?
「信じられないって顔していますね」
苦笑する彼にわたしは同意した。
「だって本当に信じられないから。わたしは桐山くんの補佐役だったけど、その避けたりもしていたし……」
「今まで僕の周りに居た女性は、家柄と顔にしか興味を持っていない女性が多かったんです」
「それは……」
「初め僕の補佐役になると聞いた貴方は歓迎していない様子でしたね」
「…………ぅ」
社会人としての未熟さを指摘されて呻く。
「でも、そこが新鮮でした」
「桐山くんの補佐役をしたい子は多かったから」
「そうですね。否定しません。でも僕はちゃんと仕事をしたいと思っていたから、そのような人達を補佐役にしたくなかった。だから、貴女が僕の補佐役を嫌がっていると知って、嬉しく思ったんです」
「え」
「色恋の面倒ごとを避けようとしていたのは、それだけ仕事熱心な人だという印象でしたからね。だから、あの時。僕は桃子さんに補佐役になって欲しいと言ったんです。桃子さんからすれば、迷惑なことでしょうが……でも僕は貴女が良かったから、我儘を通しました」
ふ、と彼が笑う。頬を掻いた彼がそのまま続けた。
「貴女と組んでからしばらくして、やっぱり僕の判断は正しかったと思いました。仕事は正確で早いし、事務処理能力も優れている。面倒ごとを避けるためにも、無理に僕と関わろうとしてこないことも正直楽でした。けれど……」
そこで彼が言いにくそうに、止まる。
どうしたのかと、視線で訴えれば、彼はぎこちなく視線を泳がせた。
「それが貴女の気遣いだと僕は理解していませんでした。僕の補佐役になって、桃子さんは根も葉もない噂を立てられたり、橋渡し役になれと言われたりしていましたよね?」
「それは……」
「貴女はただ黙って耐えていた。責任感から補佐役を降りることもしないで、ちゃんと仕事をこなしていた。それに気が付いてから、僕は貴女を意識するようになったんです」
「桐山くん。それは美化だよ。わたしはただ余計な揉め事を増やしたくなかっただけで……」
「揉め事を増やしたくないと言うなら、補佐役を断ったり、橋渡し役を受け入れれば良かったじゃないですか。きっとその方が桃子さんも楽はなずでした。今だって美化されたままでいた方が、楽でしょう? 貴女のその真っ直ぐな性根が僕には眩しい」
「桐山くん」
普段、面と向かって褒められる機会が減ってきていたからこそ、彼の言葉が面映い。
「ともかく、僕はそれに気付いてからこっそりと桃子さんを目で追うようになりました。そしてある日。会社近くの公園でココアを飲んだ桃子さんを見掛けて……」
「え……」
「会社ではブラックコーヒーばかり飲む貴女が甘いものを飲む姿が意外でつい目で追ったんです。そしたら、貴女がふわりと優しく微笑むものだからーーその瞬間。心が掴まれました」
自分の子供っぽい姿を彼に見られていただなんて知らなかった。
「貴女のことを知るたびに、僕は胸をドキドキさせていました」
わたしの手を彼の胸へと導かれる。
「今もほら。桃子さんと居るだけで胸がドキドキする」
「桐山くん」
「好きですよ。桃子さん。貴女だけを愛しています」
「わ、わたしも。桐山くんが、好き」
「桐山、じゃなくて玲と呼んでください」
「れ、れいくん」
「ああ、嬉しい。本当に嬉しい。桃子さん大好きです」
熱の篭った視線に吸い寄せられるようにして口付ける。唇が重なっただけで、体温が高まったような気がした。
「桐山くんと居ると本当にドキドキしぱなしだわ」
そう呟けば、彼はうっとりと目を細める。
「お揃いですね」
「うん」
「ねぇ、桃子さん。せっかくなら左手の薬指にお揃いの物を贈りたいんですけど……」
チラリとわたしを伺うようにして見つめられる。
柔らかく撫でられた左手の薬指。それが意味するのは一つだけ。
ゆっくりと頷く。
「うん。覚悟を決めたから……」
悩んで、悩んで出した答え。それに対する揺らぎはもうない。
「桐山くんこそ、後悔しないでね」
つい桐山くんと呼んでしまったことに苦笑する。
その刹那、彼が勢いよくわたしを抱きしめた。
「あぁ、桃子さん! 愛しています」
熱の篭った囁きに、嬉しくて泣きそうになったのはわたしだけの秘密だ。