I LOVE YOU~世界中であなたが一番大好きです~

第二話 えっ!?私がジュリエット?

 最近、生徒が浮かれているのには理由がある。
 鳳城南高校は秋を迎えて、たくさんのイベントごとが後に控えているのだった。
 大きなイベントの先陣を切るのは文化祭、その後に体育祭が行われる算段になっている。
 文化祭といえば、クラスごとの出店や出し物だが、さやかのクラスは劇をやることに決まっていた。

「っつーわけで、演者を決めなきゃいけないわけだけど……」

 劇の内容も決まっており、定番ながらに味の出やすい『ロミオとジュリエット』だ。
 しかし、肝心の演者がなかなか決まらず、これでは練習も出来ないという事態に陥っていた。
 ロミオや脇役周りは決まっているのだが、ジュリエット役が決まらない。
 早々に選ばれた美人な生徒が居たのだが、目立ちたくないという理由で早々に降板してしまった。

「もう一回聞くけど、ジュリエット役をやりたいって人は~?」

 司会進行役が聞いてみるが誰も手を挙げず、皆チラチラと周りの様子を窺っている。

「だよねぇ……。あんまり強要はしたくないんだけど……」

 文化祭がすぐに控えている中で今更内容を変えるわけにもいかず、司会役は息を吐いた後、大きな声で宣言をした。

「致し方ない!ここからは推薦もあり!」

「え!推薦ならお勧めしたい人いまーす!」

 推薦方式になって真っ先に手を挙げたのは、清美とも仲の良い生徒だった。
 その生徒は徐に立ち上がるやいなや、ずんずんと歩みを進めてさやかの傍へとやってきた。

「……え?」

 困惑しているさやかの肩を鷲掴みにした彼女は、声高らかにさやかの名前を呼ぶ。
 困惑しているのはさやかだけではなく、周りにいるクラスメイト達も突然の選抜に驚いてざわついていた。
 それもそのはずで、さやかは太い黒縁の眼鏡をかけており、前髪で顔を隠しがちなクラスの中でも落ち着いたタイプだった。

「この前、私見ちゃったの!そのメガネの下の顔!」

 さやかは幼馴染や身内を除いて、素顔を誰にも見せたことが無かった。
 しかし、その生徒は放課後に1人の教室で眼鏡を拭いている彼女を目撃したことがあったのだ。
 そう言われては興味を惹かれないクラスメイトなどいるはずもなく、皆がさやかの方を注目していた。
 すっかり委縮してしまったさやかの眼鏡を勝手に取った女生徒は、彼女をみんなの方に向けさせる。

「「……」」

 教室が沈黙に包まれているのは、さやかの顔が微妙だったからではない。
 ——むしろその逆で、あまりにもきれいすぎる顔がその下に現れたからだった。

「ちょっとちょっと!」

 沈黙を破ったのは清美で、暴走してしまった女生徒の手からさやかの眼鏡を取り返す。

「人のもんを勝手に取り上げたらアカンやろ!」

 人のプライベート領域に入った彼女を友達として叱りつけながら、さやかに眼鏡を渡す清美。

「ご、ごめん!さやかちゃんがやったらいいのにってずっと思ってたからつい!」

 怒られてしまった事で慌てた生徒は謝ったが、クラスの雰囲気としてはジュリエット役をさやかにしたいという空気が流れていた。

「……倉橋さんさ、ジュリエット役、やらない?」

 クラスの期待を一身に集められて断れるはずもなく、さやかは渋々頷くことしか出来ない。
 さやかがふと顔を上げた瞬間に、こちらを見ている響也と目が合ってすぐに逸らした。



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