孤高の弁護士は、無垢な彼女を手放さない
隼人の手が、そっと紬の肩から頬へと移動する。
指先が触れた瞬間、紬はびくりと息を飲んだ。
温もりとともに、熱が体の奥に広がっていく。

隼人の視線は、紬の瞳から、ゆっくりと唇へと落ちた。

「……つむぎ」
低く、喉の奥から零れるような声で彼は言う。
「名前、呼び捨てにして」

名前を呼ばれた瞬間、紬の内側に火が灯ったようだった。

再び視線が重なる。
外の世界はもう見えなかった。
見つめ合うその距離は、呼吸が溶け合いそうなほど近い。

紬は唇を噛みそうになりながら、かろうじて自分を保つ。

「……はやと……」
震える声。それでも、まっすぐに。

その瞬間、隼人の顔が揺れた。
感情を押し殺すような、張り詰めた切迫した表情。
――それでもなお、彼は理性を捨てきれない。

「……怖くない? 紬」

その問いは、囁くようでいて真剣だった。
こんなにも感情が溢れ出しそうなときに、それでも彼は、紬の気持ちを何よりも優先していた。

紬は、心の奥がきゅうっと痛くなる。
優しさが、愛しさになった。

「……はやと、怖くないよ……」
声は小さく震えていた。
でも、それは恐れからではなかった。

――触れてほしい。
――その先を、知りたい。

湧き上がる熱を、彼の手で受け止めてほしい。
その想いが、言葉のすべてを包み込んでいた。

隼人の手が頬をなぞりながら、そっと彼女の髪に滑り込む。
次の瞬間――ふたりの距離は、ゆっくりと、でも確実に近づいていった。
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