孤高の弁護士は、無垢な彼女を手放さない
休み明けの月曜朝。
オフィスのエントランスに足を踏み入れた瞬間、紬は視線に気づいた。

「あっ、いたいた!」
「待ってたよ~!」

あかりと茜がまるで記者会見でも開くかのように、腕を組んで出迎えてきた。
少し眉を下げて笑いながら、紬は会釈する。

「おはよう、二人とも。土曜日はありがとうね、おかげですごく上手くいったよ。」

その言葉を聞いた瞬間、2人はデスクの椅子にそれぞれ沈み込むようにして、
「よかったぁぁ~~!」と、まるで力尽きたように大きく息を吐いた。

「正直さ…初デートでテンパって、店に辿り着けないんじゃないかと本気で心配してたんだから!」

あかりが大げさに胸を押さえながら言い、
茜も「無事に帰ってきてよかったよぉ…!」と、
冗談めかして目元をぬぐうふりをする。

紬は思わず苦笑するしかなかった。

(まあ…何度か食事してたとはいえ、初回であんなキスになるとは思ってなかったし)

まさか唇を重ねることになるとは――額とか、せいぜい頬にちゅっとされるくらい。
少女漫画では、そうだった。
それを思い出すと、頬が自然に緩みかける。

口元がにやけそうになるのを咄嗟に引き締め、慌てて真顔に戻した。

そんな様子を、あかりが見逃すはずがなかった。

「ちょっとちょっと~? 今、絶対に顔、ニヤけてたでしょ!」

「隼人さんと、ちゃんと手ぇ繋いだ?」
にじり寄るあかりに、茜もガラガラと椅子を引いて詰め寄ってくる。

「うん。手も繋いだし……」

その後に続く言葉を、2人は目を丸くして待つ。
しーんと静まり返る一瞬。

「……まあ、そんなかんじ。」

言い終わるなり、2人は息を合わせたように
「それだけかーい!!!」と漫才のツッコミのように椅子ごとひっくり返るふりをした。

紬は思わず吹き出しそうになったが、そこは必死に耐えた。
だけど――口角が、完全に隠せてなかった。

「……ねえ、それ絶対“そんなかんじ”じゃない顔してるよね?」
「どこまで進んだのよ、こらっ!」

「だ、だから、ちゃんと手も繋いだし……」
紬がまた言いかけたところで、
茜が机をバンと叩いて立ち上がる。

「よし、ランチで聞き出すわよ、あかり!」

「任せなさい!社食じゃなくて外連れてくよ!」

紬は観念したように、肩をすくめて小さく笑った。
この賑やかで優しい2人に、なんだか少し救われた気がした。
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