孤高の弁護士は、無垢な彼女を手放さない
ミーティングルームの中は静まり返っていた。

紬はその場に、音を立てるように突っ伏した。
冷たい机の感触が額に触れる。

目をつぶっても、真っ暗なわけではなかった。
むしろまぶしいほどに、現実の残像がまぶたの裏に焼きついていた。

——涙すら、出ない。

ただ、胸の奥に鈍く居座る何かが、自分をじわじわと蝕んでいく。

孤独だった。

誰にも理解されない感覚。
そして、何よりも、あの時に感じた「けがわらしさ」だけが、身体に染みついて離れない。

自分のどこかが汚れてしまったような気がして。
それを、誰にもわかってもらえないような気がして。

——何も変わらない。

そう思った。
どんなに勇気を出して言葉にしても、傷ついたのは自分だけで、
加害者は守られて、自分は疑われる。
この社会は、そういうふうにできているのかもしれない。

紬は、ゆっくりと身体を起こした。

目の奥が痛んでいた。
頬も、首筋も、どこか痺れているようだった。

立ち上がりながら、両頬をパシッと叩いた。痛みはなかった。
けれど、その音が、自分を引き戻すきっかけにはなった。

そして、無理やり笑顔を作った。

鏡などなかったけれど、いつも通りの、職場での「大丈夫なふり」ができる表情だった。

扉に手をかけ、外に出る。

その一歩で、また世界の空気が変わる。

誰にも気づかれずに、ただ日常へと戻る。
ひとりきりの、見えない戦いを抱えたまま。
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