孤高の弁護士は、無垢な彼女を手放さない
静かな時間が流れる中、部屋へと入ったふたり。
ソファに腰かけた紬は、背もたれにふっと体を預けて、小さな声で言った。

「なんか……すごく、眠い……」

「少し寝てもいいよ」
隼人はそう言って、クローゼットから毛布を持ってきて、そっと紬にかけた。
毛布にくるまれた紬は、すぐにすやすやと寝息を立て始めた。

安心したのだろう。まるで緊張の糸が切れたように、無防備に。

隼人は部屋の温度を確認して、エアコンを弱めにつけ直す。
スーツのジャケットを脱ぎ、ワイシャツの袖をまくって、リビングのテーブルにノートパソコンを持ってきた。

——明日の公判前整理手続きの準備が残っていた。
けれど今、画面の向こうで待っているのは“仕事”ではなく、
その背後で静かに眠る、ひとりの女性の心の声だった。
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