孤高の弁護士は、無垢な彼女を手放さない
隼人は、紬のすぐ隣に腰を下ろす前に、やわらかく問いかけた。

「隣、座ってもいい?」

紬は一瞬だけ彼を見上げて、静かに頷く。
その動きを確認してから、隼人はソファの端にゆっくりと腰を下ろした。

乱れていた毛布をそっと整える。
彼女の肌に触れないよう、慎重に手を動かして、肩から足元へと自然にかけ直す。

その手つきが、やさしくて、紬はふぅ、と深く一度息を吐いた。
まるで、自分自身に落ち着けと言い聞かせるように。
その小さな吐息に、隼人は目を伏せて、何も言わなかった。

沈黙が、部屋を静かに満たす。
テレビの音も、街の喧騒も届かない、静まり返った空気のなかで。

十秒、二十秒、三十秒——
ただ、そばにいる。それだけで、紬が少しでも呼吸を取り戻せるように。

隼人は、あえて何も聞かなかった。
問いかけない。その沈黙が、紬にとって安全な時間になると信じて。

——彼女が、自分から、話すまで。

紬の指先が、膝の上でわずかに揺れた。
そっと唇が開こうとする気配が、空気に混ざる。

ゆっくりと、彼女の言葉を受け取る準備をする。
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