孤高の弁護士は、無垢な彼女を手放さない
人事課の会議室内、緊急会議が終わった後も、課長と内部通報窓口の担当者、それに数名の人事職員は席に残っていた。
午前中の会議で示された岩崎の件が、会社としての根幹にかかわる可能性があると皆が感じていた。
「……少し気になることがありまして」
内部通報窓口の女性職員、佐藤が小声で切り出した。
「さっきの会議で“過去の訴えの洗い直し”という話が出ましたよね。すでに過去2年分の通報案件をデータベースで確認していたんですが――」
彼女はモニターに表示した内部通報記録の中の一件を指差す。
「この通報、2年前のもので、“同じ部署の上司から繰り返し飲みに誘われ、身体的な距離が近く、不快な思いをした”という内容でした。加害者の氏名は伏せられていましたが……」
課長がその文面に目を通し、表情を曇らせる。
「……その後、どうなった?」
「本人からの申し出で“望まない対処はしないでほしい”との意向があり、当時は記録のみにとどまりました。その社員は、半年後に自主退職しています」
課長が視線を鋭くすると、佐藤が言い淀むように続けた。
「実は、その社員、成瀬さんが被害を受けた時と同じ営業部門に所属していたんです」
一瞬、場が凍りついた。
「……まさか、その加害者って……」
人事の別の職員が、隣に座る佐藤と目を見合わせながら小声で言う。
「岩崎……だったということか?」
佐藤は確信が持てないまま、静かにうなずいた。
それを聞いた人事課長の顔色が変わった。
「――よし、過去にセクハラ被害を訴えた社員で、現在も在籍している者に再度ヒアリングを行う。加害者が誰だったかを、はっきりさせろ。曖昧なまま終わらせるな」
「……了解しました」
「あと、当時の対応についても再検証する。うやむやにして、結果的に被害者が会社を去る形になったのであれば、それは我々の責任だ。二度と同じことは繰り返すな」
課長の声は低く、しかし明確だった。
その場にいた全員が、岩崎という名前に潜む問題の根深さを、改めて理解し始めていた。
午前中の会議で示された岩崎の件が、会社としての根幹にかかわる可能性があると皆が感じていた。
「……少し気になることがありまして」
内部通報窓口の女性職員、佐藤が小声で切り出した。
「さっきの会議で“過去の訴えの洗い直し”という話が出ましたよね。すでに過去2年分の通報案件をデータベースで確認していたんですが――」
彼女はモニターに表示した内部通報記録の中の一件を指差す。
「この通報、2年前のもので、“同じ部署の上司から繰り返し飲みに誘われ、身体的な距離が近く、不快な思いをした”という内容でした。加害者の氏名は伏せられていましたが……」
課長がその文面に目を通し、表情を曇らせる。
「……その後、どうなった?」
「本人からの申し出で“望まない対処はしないでほしい”との意向があり、当時は記録のみにとどまりました。その社員は、半年後に自主退職しています」
課長が視線を鋭くすると、佐藤が言い淀むように続けた。
「実は、その社員、成瀬さんが被害を受けた時と同じ営業部門に所属していたんです」
一瞬、場が凍りついた。
「……まさか、その加害者って……」
人事の別の職員が、隣に座る佐藤と目を見合わせながら小声で言う。
「岩崎……だったということか?」
佐藤は確信が持てないまま、静かにうなずいた。
それを聞いた人事課長の顔色が変わった。
「――よし、過去にセクハラ被害を訴えた社員で、現在も在籍している者に再度ヒアリングを行う。加害者が誰だったかを、はっきりさせろ。曖昧なまま終わらせるな」
「……了解しました」
「あと、当時の対応についても再検証する。うやむやにして、結果的に被害者が会社を去る形になったのであれば、それは我々の責任だ。二度と同じことは繰り返すな」
課長の声は低く、しかし明確だった。
その場にいた全員が、岩崎という名前に潜む問題の根深さを、改めて理解し始めていた。