孤高の弁護士は、無垢な彼女を手放さない
玄関の扉を閉めるやいなや、紬は鞄をソファに放り投げた。
時計を見ると、隼人が来るまであと一時間ほど。間に合う……はず。

「やば、洗濯物……!」

洗濯物を畳んでクローゼットに押し込み、テーブルの上に積まれた書類をまとめて引き出しに突っ込む。
ふだんならもう少し丁寧に整えるところだけれど、今日はとにかく“それっぽく”見えればいい。

キッチンのシンクをざっと流し、クッションを整え、ルームスプレーをひと吹き。
心臓が早鐘のように打っていたのは、走り回ったからだけじゃない。

(こんなふうに誰かを迎える準備をするの、いつぶりだろう)

どこかくすぐったくて、それでいて嬉しくて、緊張もして。
鏡の前で前髪を整えながら、紬はふっと笑った。

「……変じゃないよね?」

一人つぶやいて頷くと、玄関のインターホンが鳴った。
紬の胸が、ぴくりと跳ねた。

(来た――)

思わず口角が上がったまま、足早にドアへ向かう。
今日はただのご飯。でも、それだけじゃない。

彼がいてくれる時間が、心から待ち遠しかった。
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