孤高の弁護士は、無垢な彼女を手放さない
小さなローテーブルに2人並んで、地べたに正座するように腰を下ろす。

テーブルの上には、隼人が買ってきたテイクアウトの包み――鶏の黒酢あん、海老と卵の炒めもの、春雨サラダに中華スープ。

どれも街で評判の中華料理店のものだと、隼人は軽く得意げに言った。

「うん、おいしい……!」
頬をほころばせながら紬が箸を動かすと、隼人も満足げに頷いた。

そんな温かな空気の中、紬はふと口にした。

「隼人くんってさ、子供のとき、どんなだったの?」

差し障りのない質問のつもりだった。
昔話をしながら、もっと彼のことを知りたかっただけ――なのに。

隼人の箸が、わずかに止まる。

「……小さい頃のことは、そんなに覚えてない」

ぽつりとそう言った彼の顔には、困ったような、少しだけ遠い影が差していた。
その一瞬に、紬は何か触れてはいけないものに触れてしまった気がして、慌てて話題を変えた。

「……そういえばね。セクハラの件なんだけどさ」

話を切り替えると、隼人の表情はすっと戻り、静かにこちらへと向き直る。

「昨日の時点では“証拠がないから口頭注意だけ”って、上司が言われてたらしいの。でも今朝になって、“差し戻し審議”になったんだって」

紬は箸を置き、笑いながら肩をすくめた。

「なんか、雹でも降るのかなって思っちゃった」

隼人は黙って、しかし穏やかにその言葉を受け止めていた。
< 142 / 211 >

この作品をシェア

pagetop