孤高の弁護士は、無垢な彼女を手放さない
「良かった。ちゃんと会社が動いてくれて」

そう言った隼人の声は穏やかで、いつもの低くて落ち着いたトーンだった。
だが、言葉以上に彼の表情が、どこか“ほっとした”という色を強くにじませていて――。

紬はその顔を見た瞬間、なぜか胸の奥がざわついた。
安心しているはずなのに。嬉しいはずなのに。
なのに――どこか引っかかる。

一瞬、紬の心にざらついた疑問が浮かぶ。

(隼人くん、なにか――隠してる?)

恋愛にはからっきしなのに、こういう時だけ妙に働く直感が、無駄にささやいてくる。
“知ってるんだよ、彼は。もっと何かを”

でもそれが何かは、わからない。
本人を前にして問い詰めるほどの勇気もなく、ただ麦茶の氷がカランと音を立てた。

「……ふふ。まあ、まだ油断はできないけどね」
誤魔化すように笑ってみせた紬に、隼人は柔らかく頷く。

その仕草は優しくて、誠実そうで――だけどやっぱり、何かが、引っかかる。
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