孤高の弁護士は、無垢な彼女を手放さない
隼人は、わずかに震える紬の手を見つめ、そっと自分の手で包み込んだ。
体温の高い掌が、静かに、確かに紬の指先に触れる。

その優しさは、言葉よりも雄弁だった。
じんわりと伝わるぬくもりが、張りつめていた紬の心を少しずつ解いていく。

心拍が、落ち着いていくのが自分でもわかった。
ふうっと小さく息を吐いて、紬は口を開く。

「……今日、隼人くんの家行っても良いですか?」

なぜか敬語になった。まだ仕事モードが抜けていないのかもしれない。
それでも、気持ちは真っ直ぐに届いた。

隼人は一度だけ瞬きをして、それから柔らかく頷いた。

「うん。でも……今日は少し遅くなりそうなんだ」

そう言いながら、自分のバッグの中を探る隼人。
少しして、かちゃりと小さな音がして――差し出されたのは、鍵だった。

一瞬、紬は言葉を失う。
それを受け取る手が、どこか震えてしまいそうで、胸がじんとした。

「先に入ってて」
隼人はふわっと笑いながら言う。

紬は、鍵を受け取りながら問いかけた。

「……いいの?」

「うん。眠かったら、先に寝てていいし」

その言葉に、紬は小さく笑った。
それは、泣いたあとの顔に浮かぶ、少し不格好だけど心からの笑顔だった。
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