孤高の弁護士は、無垢な彼女を手放さない
紬が人事課の会議室から事故対応課に戻る途中、ちょうど廊下の角を曲がろうとしたときだった。
「一条さんいたよね……」
そんな声がふと耳に届いた。
立ち止まりかけた足が、自然と止まる。
紬は咄嗟に壁に貼られた掲示物に目を向けるふりをして、そのままさりげなく耳を澄ました。
「……あの人、最近人事課の会議に出てたらしいよ」
「うん、聞いた。セクハラとかパワハラ案件の処分が甘いのは、会社としてリスクだって、結構詰めたんだって」
「詰めたって、一条さんが?」
「そう。なんか、例のセクハラ上司……名前なんだっけ、岩崎? あの人の処分が社内で審議されてるらしいよ」
――岩崎。
その名を聞いた瞬間、紬の背筋にひやりとした感覚が走る。
けれど、それと同時に、心のどこかにわずかな救いも灯る。
声はまだ続いていた。
「私も実はさ……岩崎に際どいことされたことあるんだよね」
「え、ほんと?」
「うん。肩をやたら触ってきたり、距離近くて……気持ち悪かった」
「ほんと今回、ちゃんと処分される流れになってよかったよね」
その言葉に、紬の胸がじんとした。
――やっぱり、自分だけじゃなかったんだ。
そして隼人が、自分の見えない場所で声を上げてくれていたことも。
きっと彼は、あの時の自分の震えも、わかってくれていた。
掲示物を一瞥し、紬はゆっくりと歩き出す。
小さな会話の断片が、彼女の背中をそっと支えていた。
「一条さんいたよね……」
そんな声がふと耳に届いた。
立ち止まりかけた足が、自然と止まる。
紬は咄嗟に壁に貼られた掲示物に目を向けるふりをして、そのままさりげなく耳を澄ました。
「……あの人、最近人事課の会議に出てたらしいよ」
「うん、聞いた。セクハラとかパワハラ案件の処分が甘いのは、会社としてリスクだって、結構詰めたんだって」
「詰めたって、一条さんが?」
「そう。なんか、例のセクハラ上司……名前なんだっけ、岩崎? あの人の処分が社内で審議されてるらしいよ」
――岩崎。
その名を聞いた瞬間、紬の背筋にひやりとした感覚が走る。
けれど、それと同時に、心のどこかにわずかな救いも灯る。
声はまだ続いていた。
「私も実はさ……岩崎に際どいことされたことあるんだよね」
「え、ほんと?」
「うん。肩をやたら触ってきたり、距離近くて……気持ち悪かった」
「ほんと今回、ちゃんと処分される流れになってよかったよね」
その言葉に、紬の胸がじんとした。
――やっぱり、自分だけじゃなかったんだ。
そして隼人が、自分の見えない場所で声を上げてくれていたことも。
きっと彼は、あの時の自分の震えも、わかってくれていた。
掲示物を一瞥し、紬はゆっくりと歩き出す。
小さな会話の断片が、彼女の背中をそっと支えていた。