孤高の弁護士は、無垢な彼女を手放さない
「七時頃には帰れる」とのメッセージが届いたのは、ちょうどスーパーの袋を冷蔵庫に入れ終えた頃だった。
紬はそれを見て、思わず口元をゆるめた。

(あと一時間ちょっと……よし)

リビングのソファに腰を下ろして、少しだけ深呼吸をする。
まだほんのり汗ばんだ首筋をぬぐい、気持ちを切り替えるように立ち上がった。

髪をゆるくひとつに結び、シャツの袖を肘までまくる。
鏡はないけれど、キッチンの窓に映る自分の顔が、少しだけ引き締まって見えた。

冷蔵庫から鶏むね肉を取り出し、塩と酒で軽く下味をつける。
その間に、だしを取って味噌汁の準備。
人参、大根、わかめ。
いつかの会話で、味噌汁は具だくさんが好き、と隼人が言っていた気がして、それを思い出しながら。

小鍋の中でコトコトと湯気が立ちのぼる。
鶏肉は片栗粉をまぶして、少し多めの油でこんがり焼く。
照り焼き風のたれを絡めながら、フライパンの中でつややかに色づいていく肉を見ていると、なんだか心も落ち着いていった。

仕上げに、茹でたほうれん草のおひたし、そして冷奴に鰹節と生姜を乗せて——
小さなガラス皿に並べると、少しだけ涼しげで、夏の名残を感じる。

リビングに目を向けると、時計はもうすぐ七時を指していた。

(あと少しで、帰ってくる)

食卓の上に並べられた料理を見て、紬はそっと笑った。
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