孤高の弁護士は、無垢な彼女を手放さない
翌朝。
柔らかな光がカーテン越しに差し込む中、二人は軽く朝食をとった。隼人はコーヒーを淹れ、トーストを焼きながら、ごく自然な空気の中で時折微笑んでくれる。

そのまま支度を整えると、隼人は車で紬を家まで送ってくれた。
車内は穏やかだったけれど、紬の胸の奥には、拭いきれない感情がひっそりと横たわっていた。

部屋に戻ると、昨日着ていたスーツのシャツを洗濯機に放り込み、鏡の前に立つ。
手早くメイクを仕上げながら、昨夜のことが断片的に頭に浮かぶ。

結局、本当に――ただ寝ただけだった。
確かに髪をやさしく撫でてくれた。頬に触れるような、そっと置くようなキスもくれた。
でもそれだけだった。

唇も、心も、どこもかしこも……寂しいままだった。

(もう少しだけ、何かあったら……)
そんな想いがちらりとよぎっては、すぐに飲み込む。

「はあ……」
鏡の前でひとつため息を吐いて、紬は自分の中に湧き上がる気持ちに、どう向き合えばいいのかわからないまま、ただ理性を装って会社へ向かった。
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