孤高の弁護士は、無垢な彼女を手放さない
気配がふっと遠ざかった気がして、紬はゆっくり目を開けた。

するとすぐ近くに、隼人の顔――
その視線は、どこか意地悪そうで、でもどこまでも優しさを含んでいた。

「紬、シャワー……浴びといで」

耳元に落とされた低い声に、鼓膜が震える。
次の瞬間、寄りかかっていた紬の体は、優しく持ち上げられ、ラグの上にそっと座らされた。

火照った体に、空気が触れて冷たく感じる。
けれど頭の中は、ぼんやりとしていて、まるで熱が引かないままだった。

ぼうっとしながら一点を見つめていると、隼人の声がまた落ちてきた。

「……お風呂、入れてあげようか?」

その言い方は冗談めいていたけれど、どこか本気にも聞こえて、紬はびくりと肩をすくめる。

「あ、あの、大丈夫……自分で入れるからっ」

焦って立ち上がろうとした拍子に、足元がふらついて、よろける。

「気をつけて」

くすりと笑いながら、隼人が小さく声をかける。
その背を感じながら、紬は逃げるようにしてシャワールームへと歩いていった。

ドアを閉めた瞬間、ようやく深く息を吐き出す。
鏡に映った自分の顔は、驚くほど赤くなっていた。
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