孤高の弁護士は、無垢な彼女を手放さない
──寝室の灯りが落ち、淡い光だけが天井に揺れている。

ベッドにそっと横たえられた紬は、ふわりとした夢の中にいるような気持ちで、けれどその胸の奥には、小さく不安の種がくすぶっていた。

隼人は隣に腰を下ろし、そっと手を伸ばして紬の前髪を撫でた。

「……こわくない?」

優しく問いかけられて、紬は少しだけうつむいた。

「ちょっと、こわいかも。でも……はやとくんなら、大丈夫って思うの」

そう答えた声は、小さく震えていたけれど、目を合わせたその瞳には、確かに彼を信じる気持ちが宿っていた。

隼人はそっと微笑み、彼女の指先に、自分の指を絡める。

「無理はしなくていい。今日じゃなくても……いつでも、紬がいいって思えたときで」

その言葉に、紬は小さく首を振った。

「……いま、隼人くんに包まれてたいの」

その一言に、隼人の瞳がほんの少し潤んだように見えた。
彼は紬の頬に手を添え、そっと唇を重ねる。

キスは、先ほどまでよりもずっとゆっくりで、やさしかった。
焦らず、ただ安心だけを伝えるような、深く穏やかな口づけ。

紬の頬があたたかくなり、身体からすこしずつ力が抜けていく。

隼人の手が、彼女の髪を撫で、耳のうしろをなぞり、首筋へと滑っていく。
それはまるで、言葉の代わりに「ここにいるよ」と伝えてくれるようだった。

ひとつ、ボタンが外れる。
ゆっくりと、ためらいがちな指先が肌に触れたとき、紬は小さく息を飲んだ。

「……痛くしない。約束するよ」

耳元でささやかれたその言葉に、紬は小さく頷いた。
隼人の手は何度も彼女に問いかけるように動き、彼女の目を確かめながら、慎重に距離を縮めていく。

ときおり紬は、眉をひそめたり、かすかに身体を震わせたりした。

そのたびに隼人は手を止め、目を見て問いかける。
「紬、大丈夫?」

彼女は、浅く呼吸をしながら、それでもしっかりと目を合わせて頷いた。

「うん……隼人くんと、ちゃんと……ひとつになりたい」

その言葉を聞いた隼人は、そっと彼女の手を取り、胸にあてがった。

「……ありがとう。信じてくれて」

そして――ゆっくりと、ふたりはひとつになっていく。
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