孤高の弁護士は、無垢な彼女を手放さない
ダイニングの椅子に腰かけて、目の前の朝食をほおばる隼人は――
まるで何事もなかったかのように、いつも通りの表情をしていた。

眉のラインは凛としていて、視線は穏やかに手元のパンやゆで卵に向いている。
時折、湯気の立つスープをすすりながら、どこかのニュース番組の音に片耳を傾けている様子。

昨夜、あれほど切実に抱きしめてきた人とは、まるで別人のように見えた。

紬は対面からその姿を見つめながら、胸の奥に静かに小さな違和感を抱えていた。
けれど、それを口にすることはできなかった。

なぜなら彼の「いつも通り」は、まるで「何もなかった」ことのように見せる仮面のようで――

それ以上踏み込めば、何かを壊してしまいそうな気がしたからだった。

そして何より、自分の中にも、あたたかな余韻と、かすかな不安とが入り混じっていたから。

ただ静かに、食卓に置かれたマグカップを両手で包みながら、紬は彼の横顔を見つめていた。

彼の「平常」は、本当の心の平穏ではないかもしれない――
そんな予感だけが、テーブルの隙間に落ちていた。
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