孤高の弁護士は、無垢な彼女を手放さない
昼休みの社員食堂。
いつものテーブルに並んだトレイには、定食とそれぞれの好物が並んでいたはずなのに、空気はどこかいつもと違って静かだった。

あかりと茜は、スプーンを手にしながらも食事が進まず、じっと紬を見つめていた。
あかりは、真っ赤な目を伏せたまま、ぽつりと口を開いた。

「……紬は、本当にすごいよ。片山さんと、交代してもいいと思う。マジで」

その言葉に、紬は困ったように笑って小さく首を振った。

「片山さんは、いい上司だよ。私もたくさん助けてもらってるし」

すると、黙っていた茜が、少し俯いたままゆっくり言葉を紡いだ。

「私もさ……小さな物損事故で、『向こうが無理やり突っ込んできた』とか、『自分は悪くないのに過失割合がおかしい』とか、そういうのばっかり担当してると、何のためにこの仕事やってんのかなって、時々思うことあったんだよね」

少し間を置いて、茜は紬にまっすぐ目を向けた。

「でも、今日の手紙読んで、全部の苦労が報われた気がした。ちゃんと意味があったんだって思えたよ」

隣のあかりが、かすかに鼻を鳴らして、声を震わせながら言った。

「私たち……ちゃんと、守ってたんだね」

紬は言葉を探すように一度まばたきし、何かをこらえるようにして微笑んだ。

すると茜が、いつもの落ち着いた声で言葉を添えた。

「紬はさ、命と向き合う覚悟がちゃんとある子だよね。どんなケースでも、真摯に向き合ってる。すごいと思う。……私も見習いたいって思った」

その言葉に、あかりは堪えきれずに目元を袖でごしごしと拭い、何度も何度も頷いた。

「……うん、うん……」

紬は少し俯いて、それから二人を見て、まっすぐに言った。

「ありがとう、二人とも。そんなふうに言ってもらえて、すごく、うれしい」

食堂の窓から差し込む柔らかな日差しの中で、3人の心は、静かに温かくつながっていた。
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