孤高の弁護士は、無垢な彼女を手放さない
一条が出て行った扉の方をしばらく見つめたまま、紬は書類を両手で抱きしめるようにして、深くソファにもたれかかった。

(……今の、何だったんだろう)

胸の奥で小さくざわめくものを持て余すように、ゆっくりと瞼を閉じる。

一条の視線を思い出す。
ただ鋭くて、ただ怖いだけのはずだった目が——さっきは違った。

まっすぐに見つめられて、なのに不思議と怖くなかった。
どこか心配しているような、安心したような……そんな、温度のあるまなざし。
見間違いではないとしたら、あれは、ほんの一瞬の"人間味"。

(……透き通ってて、きれいな目だったな)

ふと気づくと、自分が思わず見とれて、視線を逸らせなかったことを思い出してしまう。
じっと見つめ返してしまったあの瞬間、彼のまなざしの奥に何があるのか知りたくなった気がした。

(……いつもなら、男性にあんな距離で見つめられたら、震えて声も出なくなるのに)

それなのに——彼の視線は、なぜか怖くなかった。

(……世の女性って、ああいう目に弱いのかな)

不意にそんなことを考え、自分の思考にゾッとして、思わず頭を軽く振った。

(いやいや、ありえない。私があんなのにやられるなんて、あるわけない)

自分に言い聞かせるように、唇をきゅっと引き結び、ソファから身体を起こした。

でも、あのまなざしの記憶は——どうしても、追い払えなかった。

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