孤高の弁護士は、無垢な彼女を手放さない
タクシーの窓の外を、無機質なビルの灯が次々と流れていく。
アーバンライフのロビーを出てから、会社まではそう遠くない。
それなのに、一条の頭の中は妙に静かで、妙にざわついていた。

(普通の女なら——)

困ったとき、真っ先に俺の方を見て、助けてほしいって顔をする。
涙目で、甘えるように。
助けて当然だろうとでも言うように、まっすぐ見上げてくる。

けど——成瀬紬は違った。

小さく震えていたのに、それを必死で押し殺して、大橋の怒声に正面から向き合おうとしていた。
目も合わせず、俺を頼るそぶりなんて一切見せなかった。

(……結果的に、あんな形で倒れるまで)

最後まで、自分の力でなんとかしようとしていた。

胸の奥が、ぎゅっと締め付けられる。
こんな感覚、いつぶりだろうか。

(だめだ、何を考えてる)

俺は女に興味なんてない。

表面的には、多少の愛想も言葉も振る舞える。
けど——本気で向き合うことなんて、最初からしてこなかった。
一度抱いてしまえば、それで終わり。
それ以上は、ただの時間の無駄。
そんなふうにしか思えなかった。

けれど。

(なんなんだ、あの目は)

泣きそうなくせに、懸命に感情を押しとどめるような、あのか細い目。
最後に見開かれた、俺を見つめるあの瞳が、なぜか頭から離れない。

そうして思わず、自分でも知らず知らずのうちに、彼女の髪を払って、顔色を確かめていた。
触れる手が、妙に慎重になっていたのも気づいていた。

(……放っておけばいいだろ、俺には関係ない)

そう思おうとするのに、胸のどこかがざわついて、押し黙ったまま、タクシーのシートに深く身を沈めた。
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