孤高の弁護士は、無垢な彼女を手放さない
夜10時過ぎ、六本木にあるバー《Glass Note》。
ウッドとガラスを基調にした落ち着いた内装。
JAZZのインストゥルメンタルが小さく流れていて、ほの暗い照明の中、氷の音とグラスの触れ合う音だけが静かに響いていた。
一条はカウンター席に腰を下ろし、バーテンダーに「ラフロイグをストレートで」と頼む。
このスモーキーなシングルモルトが好きだった。
強い癖があるのに、妙に飲みやすい。
今日のように、頭の中がざらつく夜にはちょうどよかった。
(くだらない……)
あれから、何度も成瀬紬の表情が浮かんだ。
涙をこらえていたのか、倒れた直後の茫然とした顔。
それでも俺を見て「大橋さんは……」と口にした。
そんな相手を前にして、俺は何ができた?
……結局、何もしていない。
「一条さん……やっぱり、素敵ですよね」
耳元でささやくような声。
となりの席にいるのは、同じオフィスビルに入っている広告代理店の女、木島 莉子(きじま りこ)。
いつもなら曖昧に断る誘いを、今日は断れなかった。
ただ飲みたかった。それだけだった。
莉子は、とろんとした目でグラスを揺らしながら、一条の肩に寄り添うように身を預けてくる。
(夢を見てるんだろうな)
一条の脳裏に浮かんだのは、冷めた感情だった。
一夜の夢。優しい言葉、優しいふり、寂しさのはけ口。
そこに本物なんてない。誰も本気で、誰かを救おうなんてしてない。
俺も、お前も、似たようなもんだ。
それなのに、なぜだか軽蔑する気持ちが湧いた。
自分が抱える虚無を、誰かで満たそうとしていることに、苛立ちさえ感じる。
莉子が、潤んだ瞳で一条の顔を見上げた。
「……キス、していい?」
問いでもなく、誘いでもない、ただの雰囲気に流されるような言葉。
一条は、何も答えずに莉子の顎に手を添え、唇を重ねた。
欲しいのは、ぬるい温もりでもなければ、愛でもない。ただ、何も考えなくて済む数分間。
女を満足させるために。
自分の中のざわつきを、無理やり沈めるために。
その唇は、ただの麻酔みたいに無感情だった。
ウッドとガラスを基調にした落ち着いた内装。
JAZZのインストゥルメンタルが小さく流れていて、ほの暗い照明の中、氷の音とグラスの触れ合う音だけが静かに響いていた。
一条はカウンター席に腰を下ろし、バーテンダーに「ラフロイグをストレートで」と頼む。
このスモーキーなシングルモルトが好きだった。
強い癖があるのに、妙に飲みやすい。
今日のように、頭の中がざらつく夜にはちょうどよかった。
(くだらない……)
あれから、何度も成瀬紬の表情が浮かんだ。
涙をこらえていたのか、倒れた直後の茫然とした顔。
それでも俺を見て「大橋さんは……」と口にした。
そんな相手を前にして、俺は何ができた?
……結局、何もしていない。
「一条さん……やっぱり、素敵ですよね」
耳元でささやくような声。
となりの席にいるのは、同じオフィスビルに入っている広告代理店の女、木島 莉子(きじま りこ)。
いつもなら曖昧に断る誘いを、今日は断れなかった。
ただ飲みたかった。それだけだった。
莉子は、とろんとした目でグラスを揺らしながら、一条の肩に寄り添うように身を預けてくる。
(夢を見てるんだろうな)
一条の脳裏に浮かんだのは、冷めた感情だった。
一夜の夢。優しい言葉、優しいふり、寂しさのはけ口。
そこに本物なんてない。誰も本気で、誰かを救おうなんてしてない。
俺も、お前も、似たようなもんだ。
それなのに、なぜだか軽蔑する気持ちが湧いた。
自分が抱える虚無を、誰かで満たそうとしていることに、苛立ちさえ感じる。
莉子が、潤んだ瞳で一条の顔を見上げた。
「……キス、していい?」
問いでもなく、誘いでもない、ただの雰囲気に流されるような言葉。
一条は、何も答えずに莉子の顎に手を添え、唇を重ねた。
欲しいのは、ぬるい温もりでもなければ、愛でもない。ただ、何も考えなくて済む数分間。
女を満足させるために。
自分の中のざわつきを、無理やり沈めるために。
その唇は、ただの麻酔みたいに無感情だった。