孤高の弁護士は、無垢な彼女を手放さない
夜風が、東京のビル街を冷たく通り抜けていく。
一条はグラスの底を見つめ、残った琥珀色の液体を一息に飲み干すと、席を立った。
「……行こうか」
短く言うと、莉子は何も言わずに微笑んで、彼の腕にそっと手を添えた。
《Glass Note》を出ると、通りに停めてあったタクシーのドアを開け、
一条は無言のまま莉子を先に乗せ、自分も隣に滑り込む。
行き先は口にしなくても、運転手は心得ていた。
この街では、男と女の気配を読み取るのも、プロの仕事だ。
車内の空気は、思ったよりも静かだった。
莉子はずっと何かを期待するように、一条の横顔を見ていたが、一条は一度も彼女の目を見なかった。
車窓に映る、自分の顔がやけに冷たく見えた。
そう、これはただの移動だ。
目的のある場所へ向かう、ただの時間の消費。
ホテルのロビーは、高級感のある間接照明と静かなジャズが流れていて、
どこか《Glass Note》の延長のようだった。
フロントを過ぎ、カードキーを受け取り、エレベーターへ。
閉まっていく扉の前で、莉子はようやくぽつりとつぶやいた。
「今夜だけでいいから……ちゃんと、見てほしいな」
一条は答えなかった。
その言葉は、彼女自身にも届いていないことを知っていた。
誰かに認められたい気持ちと、ただの埋め合わせを混同している、いつもの“夜”。
部屋に入ると、莉子は慣れた手つきでヒールを脱ぎ、ソファに座る一条に寄り添った。
彼女の髪からは、甘ったるい香水の匂いがした。
そして、一条はそのまま彼女の唇を塞いだ。
深く、けれど熱のないキス。
莉子は目を閉じて受け入れる。
何も問わない女と、何も語らない男――ただそれだけの夜。
それでも、ふと、
一瞬だけ脳裏に浮かんだのは、ソファにぐったりと体を預け、顔色を失っていた成瀬紬だった。
(……なぜ、こんなときに)
自分に苛立ちながらも、キスの最中、一条は目を閉じた。
一条はグラスの底を見つめ、残った琥珀色の液体を一息に飲み干すと、席を立った。
「……行こうか」
短く言うと、莉子は何も言わずに微笑んで、彼の腕にそっと手を添えた。
《Glass Note》を出ると、通りに停めてあったタクシーのドアを開け、
一条は無言のまま莉子を先に乗せ、自分も隣に滑り込む。
行き先は口にしなくても、運転手は心得ていた。
この街では、男と女の気配を読み取るのも、プロの仕事だ。
車内の空気は、思ったよりも静かだった。
莉子はずっと何かを期待するように、一条の横顔を見ていたが、一条は一度も彼女の目を見なかった。
車窓に映る、自分の顔がやけに冷たく見えた。
そう、これはただの移動だ。
目的のある場所へ向かう、ただの時間の消費。
ホテルのロビーは、高級感のある間接照明と静かなジャズが流れていて、
どこか《Glass Note》の延長のようだった。
フロントを過ぎ、カードキーを受け取り、エレベーターへ。
閉まっていく扉の前で、莉子はようやくぽつりとつぶやいた。
「今夜だけでいいから……ちゃんと、見てほしいな」
一条は答えなかった。
その言葉は、彼女自身にも届いていないことを知っていた。
誰かに認められたい気持ちと、ただの埋め合わせを混同している、いつもの“夜”。
部屋に入ると、莉子は慣れた手つきでヒールを脱ぎ、ソファに座る一条に寄り添った。
彼女の髪からは、甘ったるい香水の匂いがした。
そして、一条はそのまま彼女の唇を塞いだ。
深く、けれど熱のないキス。
莉子は目を閉じて受け入れる。
何も問わない女と、何も語らない男――ただそれだけの夜。
それでも、ふと、
一瞬だけ脳裏に浮かんだのは、ソファにぐったりと体を預け、顔色を失っていた成瀬紬だった。
(……なぜ、こんなときに)
自分に苛立ちながらも、キスの最中、一条は目を閉じた。