孤高の弁護士は、無垢な彼女を手放さない
午前10時。会議室のホワイトボードに「顧客対応リスク共有ミーティング」と書かれた文字が光る。
損保部門の定例ミーティングで、紬は一歩前に出るようにして発言した。
「先日の大橋健一様への対応についてですが……今後も電話や対面でのやり取りが予想されます。社内でも対応を誤ればトラブルに発展しかねないと感じています。会社として、慎重な姿勢を取るべきかと」
重い空気が一瞬、会議室に流れたが、直属の上司・片山がすぐにうなずいた。
「そうだな。顧客とはいえ、過度な要求や人格を否定するような言動は“カスタマーハラスメント”として社内ガイドラインでも定義されている。
たとえば、“業務時間外の電話強要”“怒鳴り声や威圧的態度による精神的圧力”――
こういったものはハラスメントとみなされる。
マニュアルに従って記録を残し、対応者を一人にしないよう、体制を組むこと。いいな?」
周囲が一斉にうなずき、ミーティングは次の議題に移った。
会議室を出たところで、茜が小声で紬に近づいてきた。
「ねえ……この前の面談、大変だったんでしょ?聞いたよ、けっこうヤバかったって……」
すぐ隣にいたあかりも、いたずらっぽく笑いながら耳打ちする。
「今日のお昼、いつものとこでしょ?詳しく聞かせて~」
「……うん、まあ……」
苦笑しながら応じる紬を残し、二人はそれぞれの席へ軽やかに戻っていった。
いつもと変わらない、でも少しずつ視線が変わっていく――そんな空気を、紬は背中で感じていた。
損保部門の定例ミーティングで、紬は一歩前に出るようにして発言した。
「先日の大橋健一様への対応についてですが……今後も電話や対面でのやり取りが予想されます。社内でも対応を誤ればトラブルに発展しかねないと感じています。会社として、慎重な姿勢を取るべきかと」
重い空気が一瞬、会議室に流れたが、直属の上司・片山がすぐにうなずいた。
「そうだな。顧客とはいえ、過度な要求や人格を否定するような言動は“カスタマーハラスメント”として社内ガイドラインでも定義されている。
たとえば、“業務時間外の電話強要”“怒鳴り声や威圧的態度による精神的圧力”――
こういったものはハラスメントとみなされる。
マニュアルに従って記録を残し、対応者を一人にしないよう、体制を組むこと。いいな?」
周囲が一斉にうなずき、ミーティングは次の議題に移った。
会議室を出たところで、茜が小声で紬に近づいてきた。
「ねえ……この前の面談、大変だったんでしょ?聞いたよ、けっこうヤバかったって……」
すぐ隣にいたあかりも、いたずらっぽく笑いながら耳打ちする。
「今日のお昼、いつものとこでしょ?詳しく聞かせて~」
「……うん、まあ……」
苦笑しながら応じる紬を残し、二人はそれぞれの席へ軽やかに戻っていった。
いつもと変わらない、でも少しずつ視線が変わっていく――そんな空気を、紬は背中で感じていた。