孤高の弁護士は、無垢な彼女を手放さない
「……よし」

誰にも聞こえない小さな声でそう呟き、紬はスーツの裾を整え、歩き出す。
オフィスの中に戻るその一歩一歩が、思いのほか重く感じられる。

けれど、背筋は伸ばしていた。
一条の冷たいようで温かな言葉が、どこかで支えになっていた。

また現場へ戻る。
自分の仕事へ、自分の立場へ、問題の渦中へ。

それでも、あの人のさりげない一言が――
確かに、今の自分を前に進ませていた。
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