孤高の弁護士は、無垢な彼女を手放さない
エレベーターに手を伸ばそうとしたとき――
「成瀬さん」
名前を呼ばれて、紬は反射的に振り返った。
そこには、一条がいた。
「……先日は、お誘いしておきながら、失礼なことをしました。申し訳ありませんでした」
その言葉に、紬は思わず瞬きをした。
低く、穏やかな声。
まっすぐに頭を下げる一条の姿勢に、思っていたよりずっと丁寧で誠実な印象を受けた。
「いえ、お気になさらず……。仕事でしたし」
自然と笑みがこぼれてしまう。
それは、安堵と、少しの名残惜しさが混じったような表情だった。
ほんの一瞬、沈黙が落ちる。
その静けさが紬には苦しくて、つい、余計なことを口にしてしまった。
「……素敵な彼女さんですね」
一条は、少しだけ目を見開いた。
けれど返事はなく、ただほんの僅かに息を呑み
――何かを飲み込んだような顔をした。
言うべきじゃなかったと悟るよりも先に、紬はぺこりと頭を下げた。
「それでは、失礼します」
そう言って、エレベーターに乗り込む。
扉が静かに閉まると、胸の奥がきゅっと音を立てるようだった。
数階を下ったところで、3階のフロアで再び扉が開く。
乗り込んできたのは、見覚えのある女性だった。
つややかな髪に、女らしい体のラインを強調したタイトスカート。
ふんわりと漂う香水の香りが、エレベーター内の空気を一変させる。
一瞬、目が合った。
女性は意味ありげに微笑むと、何気ない調子で言った。
「隼人くんって、夜になるとやけに優しくなるのよね。まるで寂しさを埋めるみたいに、ね」
ふっと笑って、後ろ手に髪を払う。
そして、まるでその言葉を紬に届けたかったかのように、振り向きながら降りていった。
扉が閉まり、また静寂が戻る。
けれど紬の心の中では、さっきまでなんとか堪えていた気持ちが、形をなくして崩れ始めていた。
「成瀬さん」
名前を呼ばれて、紬は反射的に振り返った。
そこには、一条がいた。
「……先日は、お誘いしておきながら、失礼なことをしました。申し訳ありませんでした」
その言葉に、紬は思わず瞬きをした。
低く、穏やかな声。
まっすぐに頭を下げる一条の姿勢に、思っていたよりずっと丁寧で誠実な印象を受けた。
「いえ、お気になさらず……。仕事でしたし」
自然と笑みがこぼれてしまう。
それは、安堵と、少しの名残惜しさが混じったような表情だった。
ほんの一瞬、沈黙が落ちる。
その静けさが紬には苦しくて、つい、余計なことを口にしてしまった。
「……素敵な彼女さんですね」
一条は、少しだけ目を見開いた。
けれど返事はなく、ただほんの僅かに息を呑み
――何かを飲み込んだような顔をした。
言うべきじゃなかったと悟るよりも先に、紬はぺこりと頭を下げた。
「それでは、失礼します」
そう言って、エレベーターに乗り込む。
扉が静かに閉まると、胸の奥がきゅっと音を立てるようだった。
数階を下ったところで、3階のフロアで再び扉が開く。
乗り込んできたのは、見覚えのある女性だった。
つややかな髪に、女らしい体のラインを強調したタイトスカート。
ふんわりと漂う香水の香りが、エレベーター内の空気を一変させる。
一瞬、目が合った。
女性は意味ありげに微笑むと、何気ない調子で言った。
「隼人くんって、夜になるとやけに優しくなるのよね。まるで寂しさを埋めるみたいに、ね」
ふっと笑って、後ろ手に髪を払う。
そして、まるでその言葉を紬に届けたかったかのように、振り向きながら降りていった。
扉が閉まり、また静寂が戻る。
けれど紬の心の中では、さっきまでなんとか堪えていた気持ちが、形をなくして崩れ始めていた。