孤高の弁護士は、無垢な彼女を手放さない
泣き疲れたように、紬はソファに座り直し、ティッシュを握りしめたままスマホを耳に当てた。

「あかり……」

「うん、いるよ」

しばらく沈黙が流れたあと、紬はゆっくりと話し始めた。

「……数日前、一条さんに……食事、誘われたの」

「……え?」

「仕事の延長みたいな感じだったし……たぶん、ただの社交辞令だったと思う。なのに、私は……ちょっとだけ、期待してしまって……」

自嘲気味な笑いが、喉の奥からかすかに漏れた。

「だって私……彼氏いない歴=年齢でさ。まともに誰かに好かれたこともない。そんな人間が……一条さんみたいな人に、少し優しくされただけで……勝手に、胸が苦しくなって……」

あかりは、静かに聞いているだけだった。
言葉を挟まず、紬が感情を口にできるように、待ってくれていた。

「でも……今日、彼女さんを見ちゃって。すごくきれいな人で、洗練されてて、余裕があって……全然違うの、私なんかとは」

紬の声が、また震え始める。

「わかってたつもりだったのに。なのに……悔しくて、情けなくて……なんで涙が出るのか、自分でもわからなくて」

「……うん」

「自分の気持ち、どう扱っていいのかわからない。勝手に期待して、勝手に傷ついて、どうしようもなくて」

唇を噛む音がまた聞こえた。

「こんな感情……なければよかったのにって思うくらい、苦しいんだよ」

その言葉に、あかりはそっと応える。

「紬、それって、恋してたんだよ」

「……え?」

「一条さんのこと、好きだったんだよ。ほんの少しでも。だから苦しいんだよ。当たり前じゃん、期待しちゃうよ。誰だって、そうなるよ。紬だけじゃないよ」

その優しい声に、紬の目からまた静かに涙がこぼれた。

< 48 / 211 >

この作品をシェア

pagetop