孤高の弁護士は、無垢な彼女を手放さない
一条は立ち上がることなく、静かに紬の前にしゃがみ込んだ。
彼の動きには脅威のかけらもなく、ただ、同じ高さに視線を合わせるための所作だった。
紬は、涙のにじむ目でその視線を受け止めた。
真正面から向けられる、一条のまなざし。
今まで見た彼のどの表情よりも、あたたかく、優しいものだった。
心の奥にまで、じんと染み込んでくるようで。
そのやさしさに、思わず目を離せずにいた。
ふっと、一条が柔らかく微笑む。
「大変な思いをされましたね。でも、もう大丈夫です。私が力になりますから。」
その言葉に、紬は再び、ぽろりと涙をこぼした。
さっきまでの悔しさや自己嫌悪ではなく、心の底からの安堵の涙だった。
「……ありがとうございます」
かすれた声で、けれど確かに、そう言葉を返す。
少し時間を置いて、一条は紬に尋ねた。
「御社には、人事や内部通報の制度はありますか?」
紬は頷いた。
「……あります。でも、いざとなると……言えないものなんです。
私、後輩にはいつも、セクハラとかパワハラとかあったらすぐ言いなさいって言ってるのに……
自分のときは、何もできなくて……情けないです……」
目を伏せる紬に対し、一条はすぐに言った。
「情けなくなんかありません。
深く傷ついたとき、人は冷静な判断ができなくなるものです。
それは決して弱さではなく、当然の反応です」
その語り口は、まるで責める言葉とは正反対の、包み込むような優しさだった。
「……私が代わりにお伝えすることもできますよ。
ご本人の意向を尊重する形で、必要なところにだけ、適切に」
紬は目を見開いて、それから慌てて首を振った。
「そんな……申し訳ないです……迷惑かけたくない」
それに対し、一条はしっかりとした声で返した。
「頼ってください。私は、そういう人たちを助けるためにここにいるんです」
言葉には、一点の曇りもなかった。
立場や形式ではなく、ただ目の前の人間として、紬の傷に手を差し伸べる意思があった。
その誠実さに、紬は胸が熱くなるのを感じた。
“助けたい”という言葉は、口先だけのものではない。
それが伝わってくる。
心の芯に、しっかりと――。
彼の動きには脅威のかけらもなく、ただ、同じ高さに視線を合わせるための所作だった。
紬は、涙のにじむ目でその視線を受け止めた。
真正面から向けられる、一条のまなざし。
今まで見た彼のどの表情よりも、あたたかく、優しいものだった。
心の奥にまで、じんと染み込んでくるようで。
そのやさしさに、思わず目を離せずにいた。
ふっと、一条が柔らかく微笑む。
「大変な思いをされましたね。でも、もう大丈夫です。私が力になりますから。」
その言葉に、紬は再び、ぽろりと涙をこぼした。
さっきまでの悔しさや自己嫌悪ではなく、心の底からの安堵の涙だった。
「……ありがとうございます」
かすれた声で、けれど確かに、そう言葉を返す。
少し時間を置いて、一条は紬に尋ねた。
「御社には、人事や内部通報の制度はありますか?」
紬は頷いた。
「……あります。でも、いざとなると……言えないものなんです。
私、後輩にはいつも、セクハラとかパワハラとかあったらすぐ言いなさいって言ってるのに……
自分のときは、何もできなくて……情けないです……」
目を伏せる紬に対し、一条はすぐに言った。
「情けなくなんかありません。
深く傷ついたとき、人は冷静な判断ができなくなるものです。
それは決して弱さではなく、当然の反応です」
その語り口は、まるで責める言葉とは正反対の、包み込むような優しさだった。
「……私が代わりにお伝えすることもできますよ。
ご本人の意向を尊重する形で、必要なところにだけ、適切に」
紬は目を見開いて、それから慌てて首を振った。
「そんな……申し訳ないです……迷惑かけたくない」
それに対し、一条はしっかりとした声で返した。
「頼ってください。私は、そういう人たちを助けるためにここにいるんです」
言葉には、一点の曇りもなかった。
立場や形式ではなく、ただ目の前の人間として、紬の傷に手を差し伸べる意思があった。
その誠実さに、紬は胸が熱くなるのを感じた。
“助けたい”という言葉は、口先だけのものではない。
それが伝わってくる。
心の芯に、しっかりと――。