孤高の弁護士は、無垢な彼女を手放さない
ある日の夕方、オフィスでの仕事を終えて、タイムカードを切った紬は、何気なくスマホを取り出した。

画面に表示された「着信履歴」の文字の下――
一条隼人 の名前。

一瞬、心臓が跳ねるような感覚に襲われた。
指が止まり、無意識にその文字をじっと見つめてしまう。

(どうして……)
何かあったのかもしれない。例の件で、また何か進展があったのだろうか。
それとも――ただ、心配してくれたのか。

(大丈夫そうだって……伝えた方がいいよね)
自分に言い聞かせるようにそう考えて、紬は深呼吸をひとつした。

外に出ると、夕方の風がほんのり涼しくて、熱を帯びた頬を撫でていく。
会社のエントランス前。
まだ帰宅ラッシュには早い時間、人通りもまばらだった。

スマホを耳に当てる。呼び出し音が鳴るたびに、胸の奥がそわそわと波打つ。

「……もしもし。一条です」
低くて穏やかな声が、すぐに耳に届いた。

「成瀬です。あの……さっき、着信いただいたみたいで……」
声が少し震えているのが、自分でもわかる。

「ええ。お仕事終わった頃かなと思って、少しだけ、お時間いいですか?」
その声に、紬の胸はまた小さく鳴った。
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