孤高の弁護士は、無垢な彼女を手放さない
「あなたは……お子さんを守ろうとしたんです。最後まで、手を離さなかった。そのことは、私たちがちゃんと見てますから」

紬の言葉に、ようやく北村の肩が少しだけ緩んだ。
それを見届けて、一条が資料を差し出しながら口を開いた。

「現在、加害者は勾留中です。
飲酒の程度と過失の重大性から、警察も厳しく対応しています。
こちらとしても、示談を進める意志はありません。
あくまで法的な責任を問う方向で、刑事・民事双方を見据えた対応を行います」

「……示談金を受け取って終わり、には……したくないです」

「ええ。私たちもそのつもりで動いています」

淡々と話す一条の声には、どこか冷静さの奥に、抑えた怒りが滲んでいた。
それが、北村にも伝わったのか、小さくうなずくと、ふっと目を閉じた。

「子どもがね……あの子が一番、優しい子だったんです。どんなときでも……“だいじょうぶ?”って、言ってくれる子だった。最後まで、私の手を握っていて……」

堰を切ったように、静かに涙がこぼれ落ちていった。

紬はティッシュをそっと差し出しながら、そばに座り続けた。
一条もまた、決して視線を逸らさず、静かに母親の言葉に耳を傾けた。

彼女の心が、わずかでも軽くなるように。
そして、彼女の正しさを、裁判の場で証明するために。
二人の心には、強く静かな決意が灯っていた。
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