孤高の弁護士は、無垢な彼女を手放さない
オフィスのランチタイム、休憩室には紬を含めた数人の同僚が集まり、和やかな雰囲気が漂っていた。

しかし、その雰囲気を一変させたのは、あかりと茜の目線だった。
二人は無言で紬を見つめ、どうしても視線が外れなかった。

「な、なに? どうしたの?」と紬は少し警戒しながら、呑気に声をかけた。

するとあかりが口を開いた。
「私たちに言うことあるんじゃない?」

「え? 何のこと?」と紬は怪訝な顔をして答えるが、何か感じ取られているのではないかと内心冷や汗が流れる。

茜がにやりと笑って、続けた。

「西田くんが言ってたよ、この前、相手方弁護士との面談の後、成瀬さんと一条弁護士が楽しそうに一緒に歩いてたって。」

その一言に、紬は思わず卵焼きを喉に詰まらせそうになり、慌てて胸を叩いた。
「ちょ、ちょっと、なんで西田がそんなことを……!」

あかりと茜は目を細めて、ますます楽しそうに紬を見つめた。
あかりはくすくすと笑いながら、
「だって、紬、最近なんか嬉しそうじゃない?」と言った。

茜も頷きながら、
「確かに、なんだかいつもより顔が柔らかくて、楽しそうにしてる」と、まるで紬の気持ちを見透かすかのように言った。

紬は顔を真っ赤にして、思わず手で顔を覆った。
「そんなの、別に……!」と否定しようとしたが、どうしても言葉に詰まってしまう。

「あーあ、言っちゃった。紬、いい人だもんね。まさか一条さんと、そんなふうになるなんて…」

あかりが意地悪く言うと、茜も軽く肩をすくめて同意した。
「まあ、仕事の関係でも、なんだか良い感じですよね。お似合いかも。」

「ちがうってば!」
紬は必死に否定し、動揺しながら弁明する。
「ただ、ちょっと食事に行っただけなんだから!」

「ふーん、そうなんだ」とあかりは満足げに笑い、茜もその顔を見てにんまりとした。
「でも、気をつけなよ。誰かに見られてるかもしれないから。」

「もう、やめてよ!」
紬は再び顔を赤くして、二人を軽く追い払うような仕草を見せる。
彼女の動揺が、逆に二人の興味をさらに引き立てていた。

「まあまあ、でも、紬が幸せそうならいいんじゃない?」と茜が少し優しげに言った。

紬は何も言えず、再び顔を隠したまま、必死に気持ちを落ち着けようとした。
しかし、心の中ではその言葉がぐるぐると回り、少し不安になりながらも、どこかほっとしている自分にも気づいていた。
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