孤高の弁護士は、無垢な彼女を手放さない
一条は、その様子を無表情のまま見つめた。

(……変な女だ)

いつもなら、少し指先が触れただけで、女たちは目を泳がせたり、赤くなったりする。
中にはわざとらしく笑って、言葉を引き出そうとする者もいた。

だが、この女は違った。

恥ずかしがるどころか――
触れられたことそのものに対して、明確な「恐れ」を見せた。

(あれは……嫌悪、か?)

一条は不意に、自分が何かしたかと錯覚しかけて、首をひとつ横に振る。

何もしていない。
ただ書類を受け取っただけだ。

それなのに、彼女は明らかに距離を取ろうとした。
まるで自分の存在そのものが、彼女にとって「害」であるかのように。

「……確認しておく。伝えたいことはそれだけか」

「は、はい。それでは、失礼します」

紬は逃げるように頭を下げ、扉の外へと消えた。
その背中は、背筋を伸ばしていても、どこか脆く、不安定に見えた。

残された一条は、一瞬だけ書類を見る手を止め、扉の閉まった方向へ視線を投げる。

(……ああいう反応をする女も、いるのか)

心に残ったのは、わずかな違和感だった。

一条にとって女は、うるさくて、煩わしくて、都合のいい妄想を抱く生き物だったはずだ。
けれど――彼女は何も望んでいないように見えた。
ただ、関わらずに済むことだけを祈るように。

それが、なぜか彼の記憶に残った。
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