孤高の弁護士は、無垢な彼女を手放さない
月島総合法律事務所の応接室を後にするタイミングで、紬は手元の資料を丁寧に揃え、鞄にしまいながら隣にいた西田に声をかけた。

「ねえ、西田くん。今日の報告書、お願いしたいんだけど……ひとりでまとめられそう?」

すると西田は、すっと顔を上げて、迷いのない笑顔で答えた。

「もちろんです! 任せてください、成瀬さんの指示、ちゃんとメモも取ってありますし!」

くしゃっとした笑顔に、思わず紬の表情も緩んだ。

「ふふ、そう。じゃあお願いね。私はこのあと、別件の文書を法務局に提出して、そのまま直帰する予定だから」

「了解です! お疲れさまでした!」
そう言って元気に会釈すると、西田は軽快な足取りでエレベーターホールへ向かっていった。

その様子を見送りながら、ふと隣にいた一条が静かに口を開く。

「……なんか、いいですね。ああいう溌剌として、屈託のない感じの子って」

一条の視線はまだエレベーターのほうに向いていて、彼なりに素直な感想を呟いたようだった。

紬は少し驚いたように横を見て、それから穏やかに微笑んだ。

「はい。なんでも一生懸命で、真面目で……教えていて、私もすごく刺激をもらいます」

その笑顔に、一条も微かに目を細める。

会話の温度は高くないけれど、確かにあたたかいものがそこにあった。
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